2013年8月13日火曜日

世界最大の汚染物質排出国:中国は環境改善に打つ手を持っているのか?

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●北京市内に垂れ込めるスモッグ〔AFPBB News〕


JB Press  2013.08.13(火)  The Economist
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38439

世界最大の汚染物質排出国
中国は速やかに環境を改善できるか?
(英エコノミスト誌 2013年8月10日号)

 世界最大の汚染物質排出国である中国が環境対策に乗り出したが、スピードアップが必要だ。

 「地獄とはロンドンによく似た街だ。
 人が多く、煙が立ちこめている」。
 1819年にパーシー・ビッシュ・シェリーはこう綴っている。
 この表現は今の中国の都市にも当てはまる。
 というのも、19世紀初頭の英国と同様に、現在の中国も工業化に牽引された急成長を遂げているからだ。

 当時の英国と同じように、豊かになりたいという衝動がきれいな空気を求める気持ちに勝り、中国の人々はありとあらゆる汚染物質を大気中に排出している。
 そして、英国人より多少は早く、こうした行いを改めようとしている。

 中国が単純に、貧困から汚染を経てきれいな空気に至るという、先進国と同じ道をたどっているのだとしたら、(地獄のような街に住む人を除けば)あまり心配することもない。
 しかし、この道は、2つの理由から、これまでの先進国とは異なるものになりそうだ。

①.1つ目の理由は時代だ。
 英国の工業化が加速していた当時、大気中の二酸化炭素(CO2)濃度は数千年前と同じ水準だった。
 一方、現在のCO2濃度は当時の1.5倍に達し、大部分の科学者が危険レベルと考える450ppmからそれほど遠くないレベルになりつつある。

②.2つ目の理由は場所だ。
 中国は広大で、経済が急成長しているため、世界への影響は他のどの国よりはるかに大きい。

■竜の吐く臭い息

 中国の工場から吐き出される汚染物質の影響を真っ先に受けるのは、不運にも近隣に住んでいる住民たちだ。
 2013年1月、北京の大気の毒性レベルは世界保健機関(WHO)が定める安全基準の40倍に達していた。
 中国の農地の10分の1は化学物質や重金属に汚染されている。

 都市部の上水道の半分は洗濯にさえ使えず、飲用などもってのほかだ。
 国土の北半分では、大気汚染の影響で平均寿命が5年半も短くなっている。

 これらすべての帰結として、中国全土で抗議行動が多発しており、そこには地域エゴに目覚め始めた中間層も加わっている。
 こうした抗議活動の高まりは、環境保護運動がより広範な反政府運動に発展することを恐れる政府にとって悩みの種だ。
 
 そこで政府は汚染に対し、弾圧と緩和という2つの方法で対処している。

 政府は環境活動家たちを収監し、国が承認した機関に環境関連の訴訟を一任することで、司法による監督の権限を制限しようとしている。
 そして同時に、国土の浄化に多額の予算の投入を進めている。

 政府は先日、大気汚染の改善に今後5年間で2750億ドルを投じると発表したばかりだ。
 これは香港の国内総生産(GDP)に匹敵する金額で、1年の国防予算の2倍に相当する。
 中国の基準からしても、これは莫大な額だ。

 中国政府が国内の汚染にどのようなペースで対処しようと、それは中国自身の問題だ。
 しかし、中国による汚染物質の排出は地球全体の資源である大気を汚染しているため、世界的な関心事になっている。

 中国の発展の規模と速度
――同国は世界の石炭、銅、鉄、ニッケル、アルミニウム、鉛の40~45%を消費している――
は、大気汚染のペースが著しいことを意味している。
 1990年以降、中国の煙突から吐き出されるCO2は年間20億トンから90億トンにまで増加した。
 これは全世界の総排出量の30%近くを占める数字だ。

 中国は米国の2倍近くのCO2を排出している。
 これはもはや西側諸国に追い付いているという水準ではない。
 1人あたりのCO2排出量は欧州諸国に匹敵する。
 輸出品に起因する排出量を考慮し、ここから4分の1を差し引いたとしても、非常に大きな量であることに変わりはない。

■動き出した環境対策

 中国政府はこうした憂慮すべき数字を改善しようと取り組んでいる。
 政府の指導の下、大企業の生産単位当たりのエネルギー消費量は減少しており、太陽光発電や風力発電関連の産業も目覚ましい発展を遂げている。

 ただし、排出量削減に向けた目標設定やそのための行政命令はあまり効果的とは言えない。
 役人と大規模な国有企業の幹部による政治的取引の中で、これらの目標や命令は無視されがちだ。
 国有企業はむしろ、経済的な目標の達成、雇用の創出、生産量の増加などにより大きな動機付けを与えられている。

 さらに、景気が減速する中では、政府に対し環境目標の引き下げや統制の緩和を求める圧力が高まる。
 たとえ独裁政権の下でも、指導部は中堅の役人からの圧力について、対応の必要性を感じているはずだ。

 もし中国がCO2の排出を大幅に削減できなければ、他国が今以上に削減するか(これは可能性が低いだろう)、全世界で別の対策を見つける必要がある。
 こうした対策としては、地球工学的な手法で大気を操作する可能性を探ったり、干ばつに強い作物など、温暖化に適応するための手法に投資したりといったことが考えられる。

 しかし、中国がさらなる排出量削減に取り組む見込みがないわけではない。
 中国が気候変動の影響を受けやすい土地だからだ。

 中国では他のどの国より海抜ゼロメートル地帯に暮らす人の絶対数が多く、海面上昇の脅威にさらされている
 行いを改めるためのさらに効果的な方法の必要性を、指導部も認識している。
 明快な方法は炭素税だ。
 透明性が高く、目標を設定する方法と比べても政治的取引により骨抜きになる可能性は低い。
 政府は導入を確約しており、早急に実現すべきだ。

■大国であることにはプラスの側面も

 他国で何らかの動きがあれば、中国も行動を起こす可能性が高くなる。
 排出量に関して世界的な協定を結ぶ試みは失敗に終わったが、西側諸国は手本を示し続ける必要がある。

 加えて、米国と中国は2国間交渉で前進を見せている。
 ハイドロフルオロカーボン(特に強力な温室効果ガス)の削減、炭素の回収と貯留技術の開発、大型車両の排出量削減で合意しており、これは幸先のいいスタートと言える。

 中国の排出量削減を先進諸国が金銭的に支援する価値はある。
 中国の排出量削減に使う1ドルと自国で使う1ドルでは、前者の方が効果が大きいためだ。

 中国以外の世界各国にとって、中国の広大さにはマイナスだけでなくプラスの側面もある。
 巨大な中国は責任を逃れることができないからだ。

 中国の国内政策は米国以外のどの国とも異なり、世界中に影響を及ぼす。
 もし中国が大気中に汚染物質を排出し続ければ、世界中のすべての人とともに自国民も苦しむことになるだろう。
 一方で、もし地球温暖化をどうにかしたいと考えるなら、中国は自国の排出量を削減しなければならない。
 そうなれば、すべての人が恩恵を受けることになる。

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英エコノミスト誌の記事は、JBプレスがライセンス契約 に基づき翻訳したものです。
英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。





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